気だるい午後・・


日差しは、射るようにきつい。
昼食を終えベランダの花たちを覗いていると
ペチュニアの鮮やかな花びらが風に揺れ、凉しげである。
アメリカンブルーもきれいな青色の小さな花をつけ
緑の葉っぱのあいだからのぞいている。
今日は吹く風も冷たく感じられ、肌に心地よい。


午後の予定がひとつキャンセルになり急遽、時間があいた。
さて、何をしよう、うれしいなぁ。
読みかけの文庫をそばに置き
手足をギューッと伸ばし籐のカーペットに寝転んでみる。
天然のむしろは、ひんやりとした感触で、座ったり
立ったりするだけでも冷たさが肌に伝わる。


一度は棄てようと思ったこの籐・・・
6年ほどのあいだ物置にしている部屋で
小さくなっていたのに、いっぺんに出番が訪れ
喜んでいるように思える。
良かった、捨てなくて・・・。


来夏は、娘のところに1枚あげようかと
思ったけれど、やっぱり止めとこう。
素朴な色合いの天然クーラーの役目を持つ籐を
こんなに見直したのは初めてである。
亜麻色をした、見るからに涼しい籐に愛着を持つようになっている。


ひんやりとしたエアコンの効いた部屋もいいけれど
心地よい風に揺られ、扇風機がかすかに舞う音を
聞きながら過ごすのも風情があっていい。


子どものころの夏休み、外遊びに疲れ、スイカを食べたり
縁側で涼をとっているとき、そのままコロリンと
眠ってしまったことなどを思い出す。


ページをめくっていると、隣の引越しをしているらしい
ざわついた声が聞こえてくる。


赤ん坊が泣き、気になり、声をかけていたお隣である。
まだ20代の若い夫婦には年子で二人目ができ
ひとり目が生まれたときから、激しい泣き声が昼夜問わず聞こえていた。
「何かあったら遠慮なく言ってね」と声をかけたことから親しみが湧いた。


そして紙おむつと芳香剤の匂いに悩まされ、
こちらもさんざん迷ったあげく、ようやくまた声をかけることができた。
そのときも快く理解してくれ、以来、匂いからは開放された。
相手を心の中で刺しながらずっと胸にためておくと
こちらも身が持たない。
気分を害させない程度にきちんと話すと
案外スルリともつれた紐がほどけるようにわかり合えるものだ。


そんなことのあったお隣が「急に引っ越すことになりました」と
挨拶に来られたのは昨日の夕方である。
入居のとき改装されていたので持ち家だと思っていたが
借りていたらしく、もっと家賃の低いところに変わるのだという。


引っ越してきたときも、引っ越されるときも手土産など
もってあいさつに訪れ、そういう面は若いのに感心だなと思っていた。
3年弱の短い付き合いだったが、人間って勝手なもので
これからあの赤ん坊の声が聞こえないのかと思うと、
ほっとすると同時に少しの寂しさも感じたりする。


「小さい子どもを育てるとき、何かあったら
まわりに相談するなど、誰かの手を借りたらいいですよ。
市の支援もあるから相談されたら」と
またよけいなお節介をいう。


子育てをしている若いママさんを見ると
どうもほっとけない気持ちになる。


ウトウトしているあいだにお隣は静かになり
誰もいなくなったようである。



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