叙勲
秋の叙勲者が発表された。
今年は全国で4,173人、大阪府下では旭日双光章や瑞宝章を
はじめ161人が受賞とある。
一芸に秀で、長年の功績が認められ栄えある叙勲の受賞と
なるわけであるが、当事者にとっては万感の思いがあり感無量だろう。
受賞者には、公や民間の団体や商工会議所などの
役職をしていたひとも多く含まれる。
府内の受賞者のひとり、元薬剤師会副会長の70代の男性は
腸が短く栄養が取りにくい患者らを救うIHV(中心静脈栄養法)の
普及に取り組んできたことが評価されている。
わが亡夫もこの中心静脈栄養法のおかげで食事を摂れなくても
生きながらえることができた。
このような水面下で長年、有形無形で携わり功績を残された方の
仕事ぶりや生き方に敬意を表したい。
一生懸命自らの信念にもとづき、職務に励み世の中の役に立つ
功績を挙げた受賞者が多い一方で、名誉職のみで
受賞の栄誉についたのでは?と思える人も
いたのではないか、と推察する。
叙勲の対象者は、最初の推薦からその人生が「丸裸」にされる。
生い立ちから現在の職業、もちろん刑の有無、会社経営者であれば
業績が問われ、さかのぼって5年前までの決算報告も赤字があると
推薦からはずされる。
受賞までの道のりは遠く、厳しく、並大抵ではない。
プライバシーなどもあったものではなく
裸になるのが嫌で褒章や叙勲の推薦を辞退するひともいる。
わたしは在職中にこの「叙勲」の資料作成に携わった経験がある。
叙勲の管轄の推薦対象になるまでにも、
なんと煩雑でたくさんのデータが必要であることか。
最終的にはA4用紙で高さ7センチほどのファイルになることもある。
一人の受賞者のためにどれほどの資料作成に労力と時間を割くか。
資料の一つひとつに裏づけが必要でその調査にも膨大な時間が要る。
ひとつの事績や功績について「作文」を書き、大きく膨らませる術もいる。
文書の作成ひとつ取っても、「てにをは」はもとより
文章を厳しくチェックされる。
ある省庁の係長クラスのひととメールや電話でやり取りしていた。
できあがった文書を送り、推敲してもらうと
小学校の作文よろしく、赤字で添削された文書がどんどん送り返される。
再作成した文書の提出は、時間限定!
朝、就業時にチェックした文書はその日の午前11時がリミットだったり
夕方など、定時の終業など無理なこともあった。
数値などの訂正については、対象者の了解や調査がいるので
簡単に書き直しはできないし、時間も要する。
霞ヶ関のお役人は、自分たちの行うことは悠長でも
他に命じるときの時間には容赦がない。
もっともその役人も遅くまで居残っていたとみえ
こちらに発信される時刻をみると、夜の11時などざらだった。
大変なんだなぁと同情を禁じえないこともある。
でも総じて、親切ではある。
省庁を訪れる機会があるといつも気持ちよく応対してくれる。
しかしその作業の煩雑なこと、このうえない。
もっと簡素化されないかと思う。
ある会社ではそのためのプロジェクトを作り、専念させているところもあり
また、司法書士などに資料作成を依頼しているところもあった。
事績や功績や人間性も大きく問われるなかでこの煩雑な作業を
している人の労苦も思う。
受賞された方にはまことに喜ばしいことと
思う一方で退職した今日では、一括書類の作成に従事したかつての日々を
思い起こし、人間社会は勲章制度を構築したりして、
まことに滑稽なことをするものだと感じたりしている。