嫁の正月

息子は、結婚と同時にだんじりまつりで有名なK市に移り住んだ。
私鉄沿線の最寄の駅から徒歩5分ほどのところに居を構えている。
だんじりに熱血を注ぐ彼は、そのためにわざわざその地に
住まいしたようなものだ。
結婚して2年ほどが経つがわたしがその新居を訪れることはあまり、ない。


嫁は看護師として働いており、我が家に二人が顔を出さない限り
会うことはない。
嫁の実家の母親もわたし同様、さほど遠くないのに
めったに行かないようである。
子どもがまだいないせいか、それぞれあっさりした付き合いが続いている。
お正月は、2日に息子夫婦の家で過ごす習慣ができた。


彼らは大晦日まで仕事があり、ようやく3日間の休みが連続して取れ
そのなかの一日を、わたしと娘夫婦を招くために割いてくれている。
早々に木の香も匂う息子の新居を訪れると、孫の潤平もかえでも
広いリビングを走り回っている。
潤平はおとうちゃんと、オジチャン(息子)に囲まれゲーム三昧でご機嫌だ。
娘は下ごしらえして持参した「鶏のから揚げ」や
「エビマヨ」などのオードブルを嫁と二人で作っている。


テーブルには嫁の母のお手製のお節が並んでいる。
若い世代にふさわしい宇野千代ブランドのおしゃれなお重箱だ。
おまけに質素このうえない、わたしのとは比べようがないほど
中身は豪華である。
牛肉でごぼうを巻いた「八幡巻き」など好物だが
わたしは最近は作っていない。
棒ダラの煮付けも長いこと我が家のお重に収まることはない。(高い!)
ほどよく焼かれたローストビーフに婿殿が感嘆している。


わたしは、おいしい!おいしい!と遠慮なく箸を進め
持参した赤ワインと、用意してくれたビールをグイグイあける。
まったく、姑の立場ってなんて楽なんだろう!と思いながら。


夕食までに、ほどほどお腹が満たされると、カニすきである。
たっぷり用意されたカニを娘は黙々と、しあわせそうに平らげる。
「いくらご飯」を潤平はお代わりするほど食べ、イカやハマチのお造りを
大人並みにほおばっている。
牡蠣もお鍋にしたり酢牡蠣にしたり、お腹いっぱい食した。


食事が終わるとデザートや菓子類がキッチンの
収納庫いっぱい用意されている。
「この日のために用意したんです」嫁がいう。
なんといじらしい。
「怖い姑と鬼千匹の小姑」を招くため
気配りしているさまが見て取れる。


「キッチンが広くていいなぁ」羨ましそうに娘がいい
嫁と一緒に片付けるさまを見ていると、家族が増えたよろこびを
しみじみと感じる。

ありがとう、息子よ、嫁よ。
義母や義妹に一生懸命気を使う嫁がいとおしい。
疲れただろうに、精一杯のもてなしをしてくれた彼らの気持ちがうれしい。
新年の幕開けに、これからも心温まる家庭を築いて
くれるよう願うばかりである。