秋の匂いをたっぷりと

半年ぶりぐらいに息子夫婦と墓参した。
彼らとどこかへ行く、というのは
岡山までのドライブぐらいのものである。



10月も半ばだとういうのに強い日差しが照りつけ
車内は暑いぐらいである。
中国道は、空いており車は快調に進む。
右を向いても左を向いても紅葉し始めた山のてっぺんに
黄色や茶の絵の具を散らしたような風景が目に飛び込む。
山々も冬の準備に忙しいらしい。


延々と、車窓にはのどかな田園風景が続く。
ヨーロッパのどこかの街並みを彷彿させる。
「にっぽん昔話し」という市原悦子の子ども向けの漫画が
あったけれど、あの声が聞こえてきそうな丸い山も見え隠れする。


エアコンを入れるほどではないし、窓を開けると
とたんに枯れ葉を燃やしたようなワラの匂いと
苔むした木々の香りが通り過ぎていく。
「ええ匂いや、秋やなぁ」
ふだん、情緒的ではない息子が気持良さそうに言う。


わが家の墓は、しばらく行かないあいだに草が伸び
いまにも朽ちそうな様相を呈している。
無沙汰を心のなかで詫びた。
大人3人で草引きや墓を磨くと瞬く間にきれいになり
墓も生き生きとしてきた。
頻繁には来られないけれど、我慢してなぁと手を合わせ
墓を跡にして、近場の温泉で食事を摂ることにした。


「宮本武蔵」発祥の地のこちらは近年、村お越しのための
資料館など立派な箱モノが建てられ、土産物やも増えている。
温泉はその一角にある。
墓から車で5分ほどの距離、かつての夫の生家からも近い。


息子たちは、墓参のたびに宮本武蔵温泉の
湯につかっているらしく要領を得ている。
日曜日に関わらず、温泉は閑散としていた。


明るい日差しを浴びながらふたりで肩をならべ
気泡の湯で足を伸ばす。
嫁ちゃんとわたしの貸切り状態。
ああ〜極楽、ごくらく。


温泉から出ると併設の和食レストランで食事。
数えきれないほど墓参には訪れているが
こちらのレストランを利用したのは初めである。


木の香りもかぐわしい、山あいの小さなレストランだ。
寄贈された元村の住人からの油彩が4点ほどかけられており
どれも素朴で、抑えた色彩のなかに温かみを
感じる作品に、しばらく見入ってしまった。


息子は土地の豚を使った焼き肉定食の大盛、わたしも久しぶりに焼き肉に。
生姜と醤油に漬け込んだ肉が香ばしく食をそそる。
嫁ちゃんは「粕汁定食」を注文した。
どれもボリューム満点だったけれど3人とも、きれいに平らげた。


しばし温泉のまどろみをレストランで癒し
帰りは大阪の入口まで彼女が運転した。


道中、サービスエリアで、ソフトクリームを買い
大判のたこ焼きをフウフウ言いながら食べ
賑やかにドライブを愉しむ。


息子たちは結婚してこの11月で3年になる。
子どもはまだいない。
ふたりの会話やしぐさは、まるで学生のノリのように
おもしろいやりとりが続き、息子は心底
嫁を愛おしく思っているのが感じられた。
良かったなぁ、いい妻に恵まれて・・・
ありがとう、Sちゃん。


夫婦が、家族が、それぞれ仲良く助け合って暮らしてくれれば
親にとっては一番喜ばしい。
親孝行と思える。


ポーターも会計もすべて息子夫婦に甘えた。
「老いては子に従え」である、サンクス!


秋の一日を息子夫婦と墓参し、温泉につかり
晩秋の匂いをたっぷり吸いこんだ。