わが家の可愛い執事
台所で、リンゴをむいていると、
「あ~~い」
1歳のソウスケが覗きこんで、小さい手を挙げている。
要ります~~という意思表示である。
ママがいつも「おやつ欲しい子ぉ?」と訊ね
3人の子どもたちがいっせいに
「は~い」と手を挙げ、テーブルにつく。
そのノリで1歳は、いち早く手を挙げ
リンゴを乗せた皿をヨタヨタと、リビングのこたつに運ぶと
3人は丸い背中を並べて食べている。
ママがバレーボールに熱中し、週1回彼らを預かるはずが
いつの間にか、週2回になっている。
「ほんまに楽しいわぁ~~」
蒸気した満足気な顔で帰宅する彼女は、来春の試合に出してもらえるそうで
ますます、練習に気合が入りだした。
欲張って、ママ友の計らいで他校区の練習にまで行く始末である。
おかげでこちらは生活のリズムが、ガッツリ狂ってしまい
週末はわが家で、平日は彼女の家でご飯をよばれ
時にそのまま泊ったりもして、イソガシイ。
来春には2歳にならんとするソウスケも留守には慣れたもので
「ばぁばぃ~~♪」機嫌よくママを送りだすようになっている。
たまに虫の居所が悪いと、玄関先でワァ~とひと泣きするが
あとは、ケロッと7歳、4歳の兄姉と一緒に遊ぶ。
お兄ちゃんたちが一緒だと心丈夫のようだ。
ばぁばも、3人一緒の方が皆で遊んでくれるから助かる。
わが家の玄関に入るや、3人はそれぞれ自分が背負ってきた
リュックから遊び道具を引っ張り出す。
7歳は、BSとかいうゲームを待ってましたとばかり繰り、
4歳はキティちゃんの塗り絵に精を出す。
1歳は、音楽の鳴るおもちゃのボタンをいじり、
繰り返し聴いては体でリズムを取っている。
音楽は心地いいのか、じっと耳を澄ませたり、踊ったり
心底、好きなようである。
それぞれ、飽きたころに全員のお絵描きタイムが始まる。
こたつの上に画用紙をいっぱい広げ、3人は思い思いの落書きを楽しむ。
そのうち4歳が「ばぁばの、色えんぴつを貸してぇ」とねだる。
ばぁばの色鉛筆は水彩鉛筆になっていて、水を含ませた筆で
描いた跡を押さえると滲みが出るのを知っている。
ばぁばの大事なものだが、まぁ仕方ないか。
3人の前に出してやると、1歳は・・・・
トコトコと場所を移動し、窓際に置いてあった
小さい「おちょこ」を取りに行く。
そのおちょこは、水彩色鉛筆の「水入れ」に使っているもので
ばぁばに差しだすと「水をいれてくれ」と、要求する。
何とまぁ、「一を知って百を知る」ようなものだ。
すっかりばぁばは感心し、小さな執事に目を細める。
まったくお兄ちゃんたちによく尽くし、気がつくなぁ。
「さぁ早く片付けなさいよ~~」
「ケンカしなさんな!」
ときどき、7歳、4歳に叱咤するばぁばの掛け声に
「あいっ」
いち早く返事をするのも1歳である。
なんと麗しきチビスケであろうか。
ママはバレーボールで汗を出し、ばぁばは、チビたち相手に
ツノを出したり、顔をほころばせたり・・・
師走の一日は変哲もなく過ぎて行く。
これもまた楽し。
1歳のチビスケの勘の鋭いところをみては、
ばぁばバカに浸っているわたしである。