特別養子縁組・・・
生まれたばかりの赤ちゃんがテレビの画面に大写しになっている。
まぶしそうに、まぶたを閉じたり開けたり、ギョロっとあたりを
見回すと、安心したように目を閉じ、眠る。
3キロほどあるという男児は、血色も良く、手を握り
男の児らしい産着を着せてもらいバンザイの姿で、寝ている。
傍らにはお姉ちゃんなのか、2歳ぐらいの女児が、
可愛くてならないという感じでしきりに赤ん坊の頭や顔をなでている。
出産後、退院を待ち望んだ家族に囲まれ、産湯を使わせる。
じぃじやばぁばの緩んだ頬が、ますます伸びる場面が想像できる。
出産という一大事を終えたママにとって、多少の不安や
疲労もあるけれど一番、幸福感に満ちた時ではないだろうか。
しかし・・・
天使のような寝顔の男児は、ママの匂いを覚える間もなく
ママから引き離される。
養子に出されるのだ。
自分の運命がどのように展開されるのか、知る由もない。
母親には2歳の女児と、1歳になる傷害児がいて、夫はいない。
夫のDVが原因で別れたのだといい、望まない妊娠だったようである。
3人は育てられないと判断し、妊娠中から養子に出すことを決めていた。
ネットで養子縁組を知り、NPOの支援を受けることになった。
「特別養子縁組」だという。
赤ん坊は、支援者の手によって相手方の夫婦のもとに連れて行かれる。
「特別養子縁組」と「養子縁組」は、どう違うのか。
子どもを養子に出しても実親との関係がそのまま存続するのが
養子縁組で、子どもを渡した瞬間から実親との関係は、
きっぱり断たれるのが特別養子縁組だという。
最初から戸籍には「実子」と載るようなのだ。
その違いが子どものこれからに、どう影響するのか・・・。
特別でも普通でも、子どもを養子にだす養子縁組制度に
関しては諸々意見が分かれることだろうが
一番の目的は、望まない妊娠によって生まれた子どもが
「実の母親の虐待などで死ぬ」ことを防ぐことにある。
実際、生後一年未満の赤ん坊が母の手にかかり死するケースが
年に数十軒もあるのだという。
テレビでは、別れる前に母親が産湯を使わせ、ミルクを飲ませ
目に、いっぱいの涙を浮かべていた。
「ここで暮らすより、この子は、可愛がってくれる夫婦に
育てられるほうがしあわせだ・・・」
ぽとりと涙を落とし、かすれた声で言い放つ。
何とも言えない情景である。
他に選択肢はないのだろうか。
親子3人一緒に暮らす方法はないものか!と
テレビの前で胸を塞がれる人も多かったに違いない。
かつてはどんなに貧しくても子どもを他人に差し出すことは
少なかったのではないか。
厳しい言い方をすれば快楽の末に訪れた嬰児を葬り
せっかく産まれても虐待などで死なせてしまう。
文明が発達し、暮らしは楽になっても
人のこころや情は頽廃し、特に子ども受難の時代だとも言える。
一方でどんなに努力してもコウノトリが訪れなくて
産まれたばかりの赤ちゃんを実子として育てる決意をした夫婦もある。
実の子でもひとりの人間を育てあげるのは大変なことだ。
血のつながらない親子が、今後どのような人生を送るのか。
育ての親にも、後々の相談ごとに耳を傾け、普通に親子関係が
結べるよう細かい支援を望みたい。
もらわれてきた子どもが充分な愛情を得て、いい人生を送って欲しいと願う。