う〜ん、今ふたつなのよ。
画像はなんじゃもんじゃ(一葉たご)
K子の婚活 ⑤
「なかなかいい感じの方ね〜」
帰宅したK子から電話がかかってきた。
「気がついたら4時間近くも経っていたのよー」
K子は声を弾ませながら言う。
ふたりは意気投合し、付き合いが始まった。
社長氏も翌日、事務局を訪れると私の傍に来て
他の人に知られないよう、お礼を言ってくれた。
にこにこと上機嫌である。
K子と社長氏のデートは週一回平日の夜と決まっていた。
彼の仕事を終えてから都心のレストランで食事をし、
そのまま帰るというものだ。
いまどき中学生でもしないような、清らかなデートである。
社長氏は、どういうわけか時間を惜しむように、そそくさと帰る。
彼女はそのあとひとりでスナックへ流れた。
そのうち、食事の場所がおしゃれなレストランから居酒屋さんに変わった。
女性にとって食事の店のランクを落とされるのは、
自分が大事に扱われていないように感じて気分は良くない。
それでも騒々しいところの苦手な彼女は、自宅に彼を招き
彼の好きな地酒を用意し、手作りの和食料理でもてなすようになった。
なんと彼は食事のあと満足げに「お酒はおいしかった〜〜」
これにはK子もびっくり!
料理をほめられるほうが嬉しいのに、
そのあたりが、わかっていないらしい。
女性に手作りをご馳走されるほど嬉しいものはない。
社長氏は、こぼれんばかりの笑顔で現れ
「いま青春しています〜」などと、嬉しそうに言ってしまい
「何かいいことあったンですか〜」などと他の職員に訊かれている。
社長氏は彼女にぞっこんだが、肝心の結婚については具体的になにも進展しない。
奥さまの逝去から1年ほどが経っている。
気持ちはあっても何をどのように進めたらいいのか、
わからない、というのが実感ではないだろうか。
熟年世代の再婚というのは、難しい。
まず子どもの承諾がいる。
双方の相手が先に逝った場合の相続問題が出てくるからだ。
住む家をどうするのか、そのまま彼の家に入り込むことはできない。
前妻の思い出が詰まりすぎている。
ふたりで話し合うことはたくさんあるが、それのどれも話題にならない。
おんなのK子からは言い出しにくい。
そのうち少しずつデートが進展し彼はK子の家で食事をよばれると
帰り際に手を握り、キスを迫るようになった。
大人のつきあいならば、珍しくもない。
いつかは、と覚悟もしている。
けれど、いつもスルリとかわしてしまう。
彼の髪から匂うポマードに耐えられないのである。
会った当初から気になっていた。
男と女は、たった一瞬のできごとでその後の選択が変わる。
ささいなことではあるが、がっかりすることに遭遇する。
一度だけ彼から贈り物をされたとき、それは何かの記念品(引き出物)と
はっきりわかるモノであったこと。
ささやかな外での食事のあと、ポケットから割引券をガサゴソ探し
支払いをしようとすること。
土・日は次男夫婦との生活を優先しお孫ちゃんたちと遊ぶのが楽しいと
はっきりK子にいうことなどが、気にかかるようになった。
それが相手への関心が薄れる第一歩になり、ふたりの交際はボツ!
男が本当に女を得ようと思えばもっと真剣にならないと相手の心を掴むことはできないのではないか。
1回目の元商社マン氏にしろ、今回の元ブンヤの社長氏にしろ
伴侶となる女性の琴線に届く行為に欠けていたのではないだろうか。
何を欲し、どう生きたいと願っているのかしっかり相手の心を見極めるのは難しい。
長年連れ添った夫婦でもわからないことが多い。