DNA

「可愛い〜〜!!ほんまに可愛いわ〜!」
潤平と楓を、ぎゅっと抱きしめては「可愛い、可愛い」を連発し
子育て真っ最中の娘が、感慨深気に言う。


娘は30代に突入する前に結婚し、それなりに会社で男性に伍して働いていた。
休日など自分のことで精いっぱいで家事など、得意ではなかった。
部屋も散らかり放題でこんなんで結婚して
ちゃんとやっていけるのか、心配したほどである。


結婚して5年を経たいま気丈な母親をやっている。
手作りの料理をじっくりこしらえ、家計を切り盛りする。
「ゆっくり子育てができて、しあわせだわ〜」と
育児に専念できることを何よりの喜びと捉えているようである。
たっぷりの愛情をかけて愉しんでいるように見える。


そんな彼女の姿はわたしには嬉しい反面、意外にも思え
どうしてこんなに「情感豊かな」子に育ったのか、と首をひねる。


どちらかというと放任に近い子育てで
「勝手に子どもたちが成長した」と思えるほど
手抜きをやってきたわたしなのである。


特にわが家の場合、息子や娘が小さいころに義父母の病気や、他界、
夫の転職や病気などが集中し、生きていくのに精一杯だった。
ゆっくり子育てを楽しむどころではなかった。


夫の病の発症後、わたしは勤めに出ることになり
からだの調子がいいときなど夫が家事一切を引き受け
夫婦の役割が逆転した。


子どもたちが成長期のころ、夫はずっと家にいて
父子の密着した生活が長年続いた。
誕生日にケーキを焼き、友達を招きパーティを開くなどは
すべて父親である夫の役目だった。


子供たちが社会人になっても我が家には、彼らの友人の来訪が絶えない。
お好み焼きや、パスタや手巻き寿司などが好評で来客の好きな
夫は張り切って、もてなしていた。


食べられないのに夫自身は食に関して、人一倍執着心があり
食材を安く仕入れて来ては、家族の喜ぶ惣菜を作り
耐乏生活であっても食生活は賑わっていた。
家族を養えない夫の精一杯の矜持だったのではなかったろうか。


娘はわが子を持ち初めて親に対する感謝の念が湧くのに際し
「父さんに〜〜言われたわ」などと自分の育児と
重ね合わせ、父親を引き合いに出す。

「何でお父さんやねん」内心気持ちは良くない。
子育てに関わることなど、本当は母親を思い出すはずなのに
いつも出てくるのは父親とのことばかり。
わたしは、べったりと家にいなかった分
グウタラママを演じていて損な役割だなぁと思う。


それでも娘が家庭的な素養を持ち家事や育児に
いそしんでいることを、ほほえましく安堵する一方で
それらは何がベースになっているかを考えると、やはり
父親のDNAを受け継いでいるのでないかと感じざるを得ない。


味付けや食べ物の嗜好、生き方などそっくり受け継いでいる。
ただし時々現れる度胸の良さは、母親のわたしに
似ているのではないかと思っている。
娘よ、しっかり父を偲び、家庭を守って、と祈る。



てっぽうゆり