既婚女性が働くということ

R嬢は、大手航空会社の国際線の客室乗務員をしている。
地方紙の記者である夫と結婚して5年ほどになり
人もうらやむ結婚生活の、スタートを切ったにも関わらず破綻した。
「夫の浮気と夫が生活費をいれないこと」が主な原因のようである。


このR嬢(ミセスだから呼ばないか)、わが愚息が幼稚園のころに通っていた
音楽教室の仲間なのである。
家族同士のつきあいが細々と続いており、R嬢が年頃になると
一段と聡明さと美しさに磨きがかかり、愚息などは憧れたりもしていた。


彼女の母親は夫が自営業であり、ずっと専業主婦をしていたせいか
娘には「職業婦人」をめざすべくその支援をしてきてきた。
ホテル勤務など名の知れた企業の内定を幾つかもらい
そのうち国際線のスチュワーデスを選んだ。


独身で親の庇護のもとで仕事をする分には華やかでいい職種のそれも
一度フライトに出ると1週間や10日以上家を空けることはザラである。
そんなことから結婚と同時に妻であるR嬢は
夫了承のうえ自分の両親と同居を望んだのである。

果たしてその選択が良かったのかどうか・・・


R嬢の弟も結婚して家を出ており、同居はうまくいくかに見えた。
しかし、一番先に音をあげたのはR嬢の母親である。
娘婿の食事や身の回りの世話など最初覚悟していたとは言え
やはりしんどさを感じるようになった。


帰宅時間や食事などが夫とずれて、手がかかる。
夫の休日も、以前は二人でゴルフのコースに出ていたのに
婿殿の食事の世話などがあり、一向に気が休まらない。
婿殿は外食が嫌いで外出していても、きちんと帰り家で食事をする。
わずかの食費を入れるだけで生活費は、ほとんど入れないという。


そのことも知ったR嬢の親は心中穏やかではない。
そのうち若夫婦のあいだに女児が生まれ育児休暇を
取った娘たち家族に平凡なしあわせが訪れた。


しかし娘が仕事に復帰すると孫の面倒を
親に任せ切りで婿殿の外出が始まった。


穏やかな性格でもめごとの嫌いな母親も、
さすがに疲労困憊で、不満このうえない。
婿殿もその空気を察したのか益々娘がフライトのときは
家を空けるようになり、ついに外に女性まで作ってしまった。


それが一度ならず2度重なると、さすがにR嬢も気落ちが激しい。
夫への愛情が薄れる。


こういうとき結婚している女性が仕事を
続けることの大変さを思う。


R嬢が仕事を辞めようか、
あるいは、親と別居して水入らずな生活を始めようかと
ふたりは結婚生活の建て直しに心を砕いたようである。


が結局、夫に不信感が募っていることと
仕事を辞めると生活に支障が出ることから
それらの選択をしなかった。


かくして二人は離婚し、R嬢もそれまで通り仕事を続けている。
愛娘はR嬢の手許に置き母親が面倒を見、夫が家を出た。


「ふたつ良いことさてないものよ」ではないけれど
仕事と家庭の両方を掌中にするのは、難しいことなのか。


人間、いつも生きていくうえでの分岐点というか
選択があり、そのどれを選ぶかでその後の人生が
大きく変わっていくのは周知の通りである。
その選択の善し悪しは当人でないとわからない。