マーガレット・サッチャー
映画の原作はマーガレットの娘キャロルが2008年に出版した回想録である。
監督は女性のフィルダ・ロイド。
政界を引退し認知症を病むサッチャーが、夫デニスの幻影に語りかけながら
野心に燃えていた少女時代から、議員として家庭と仕事の両立に
悩んでいた頃、首相の座にのぼりつめ周囲の反発を受けながら
難しい決断を迫られる様子などが,回想として描かれている。
いきなり画面に現れるサッチャーには、驚く。
あの凛々しい鉄の女と評されたマーガレット・サッチャーは
80代後半になっており、老いと認知症発症で
かつて栄光の座にあった彼女とは思えないほどやつれている。
それでも毅然とした態度と話し方が時々病気の彼女に現れると
現役時代を彷彿とさせ、見ているものをホッとさせる感がある。
トボトボと横歩きしそうな頼りない歩き方・・・
夫は他界しており、たまに顔を見せる娘とのとの会話もかみ合わない。
コンビニへ牛乳を買いに行くとレジの男から通常の値段より
高く吹っ掛けられるなどされており、現実の痛ましさを感じる。
誰しも老いるし病気にはなりたくないが
あのマーガレット・サッチャーの変貌ぶりには胸を突かれ
過度のストレスが原因なのだろうか、との思いが強くなる。
かのレーガン大統領も政界を退いたあと認知症を患っている。
アカデミー賞主演女優賞に輝いたストリープの、迫真の演技もさることながら
首や、顔のしわのメイクの技術にも驚くほどのリアリティがある。
英国での言葉は階級社会が厳しく守られているが
上流社会人が語る「美しい英語」を
久しぶりに聴いた、と宿ハチさんは絶賛していた。
わたしにはさっぱりその差異はわからないが
かなり訓練されたものといえるようだ。
雑貨商に生まれたマーガレットはオックフォード大学を卒業し
地方の市長をしていた父親の影響を受け政治家を目指し、
保守党から立候補する。
落選した失意の彼女は「結婚して苗字が変われば当選する、一緒に歩もう」
と、デニスに求婚される。
夫デニスは彼女の政界入りを支援し、死ぬまでマーガレットに寄り添う。
教育大臣から、のちに首相の座について11年のあいだ諸々功績を残した
サッチャーは、男女双子の子どもに恵まれ、男の子には手を焼いたが
女性としても悔いのない人生だったのではないだろうかと思える。
先に逝った夫に仕事優先だった妻としての負い目も感じながら
孤独な日々を送る女性の老いた姿の生々しさを
メリル・ストリープは見事に演じきっている。
迫力ある映画だった。
また全巻を演出する音楽も大変効果的で印象に残る。
『何かを発言して欲しいなら男性に頼みなさい。何かを実行して欲しいなら女性に頼みなさい』
(If you want something said, ask a man. If you want something done, ask a woman)
(マーガレット・サッチャーの名言 より)