血脈を読み終えて・・・
[:360:left]佐藤愛子著「血脈」上・中・下 3巻を、やっと読み終えた。
1巻600ページ、全1800ページであるが、3週間もかかった・・・。
最近は目の疲労感もあり、ページを繰るのが遅い。
でも早く読み進めたい気持ちが強く、横浜へもカバンに忍ばせていた。
往復の車中、ホテルでの寝起きのときも目が離せないほど
夢中にさせる内容だった。
ようやく読み終えると、疲労感に襲われている。
こちらの薄い肉体に宿る小さなエネルギーを
根こそぎ持って行かれた感がある。
この小説については、前回のブログ「一顰一笑」で少し、触れた。
憤怒の作家で知られる佐藤愛子の「激情型」性格が
どこに起因するのか知りたかったし、父・佐藤紅録についても関心が深かった。
佐藤紅録→サトウハチロー→愛子という風に
作者、佐藤愛子は、紅録(洽録)の血をもっとも濃く継いでいる。
諸悪の根源は、洽録が、三笠万里子・シナ(佐藤愛子の母)に惚れたことにある。
不幸の始まりと言っていいようだ。
シナは、洽録より20歳若く、女優志願で、男にもお金にも関心がなく、
役者で大成することだけが夢だった。
無理に紅録に囚われて大事にされても少しも有り難くはなく、
いつも不機嫌で、無愛想である。
しかし洽録の方は、狂気のようにのめりこむ。
洽録には正妻とのあいだに5人の子がおり、芸者にも子どもを産ませ認知し、他に妾なども多々いてまさに火宅のひとだった。
シナにのめりこんだ結果、正妻と子どもたちを捨て他の女ともきっぱり縁を切る。
洽録の、女好き、癇癪持ち、他人に迷惑をかけても屁とも思わない蛮人的性格はそのまま、ハチローを始め4人の息子に引き継がれていく。
佐藤家の男達のなんという不良ぶり、どうしようもない我が儘ぶり。
そして自分で自分を律することが出来ない性格、
女好き、独立心のなさ、衝動的性格、その反面、寂しさに耐えられないなど
大挙して親に迷惑をかけ尻ぬぐいさせる。
粗野で、人を人とも思わぬハチローのどこから
あの優しい詩が生まれるのだろうと、みなが首をひねる。
ハチローが子どものころ、父の作品に批判的だったように
ハチローの子どもたちもハチローの詩に反吐を吐くほど嫌っていた。
私生活の乱れと作品の静謐さにあまりに隔たりがあるからだ。
サトウハチローの詩には「かあさん」を謳った詩が多い。
♪かあさんが 夜なべをして 手袋 編んでくれた♪ という
優しい詩も、実生活からはかけ離れ、母を憎む気持ちが強いのに
ウソばっかり書いて、と兄弟や、まわりから不評である。
一方で「かあさんの歌」は、生みの母を想う心情の表れだと評する人もいる。
実母は家事能力、育児能力ゼロで、手伝いや乳母に任せきりにし
あげくは、他の親戚に預けたりしている。
すべての兄弟が親の愛情を欲しているのに愛情を得ずに育った。
子どもを次々と生んでは、家庭を顧みず妻も子どもも放任しているところは
父とハチローと、そして他の異母兄弟もまったく同じである。
佐藤家の「血」と作者は言い、因縁とも結ぶが
しかし親の愛情不足が、ここまで放恣な人間に
育つものだろうか?とわたしは疑問に思う。
この小説は、「別冊文芸春秋」に12年間連載されたものらしい。
着手する13年ほど前に、佐藤愛子の友達中山あい子が
「あんたはいいよね。ヘンな親類がいっぱいいて」と
小説のネタに不自由しないことを羨んでいたという。
あまりにもヘンな親類が多すぎて、よく考えてみると
自分もそのひとりであり、どういう手法で書けばいいのか
わからなかったというほどだったという。
とにかく、ずっしり重たい内容である。
読むほうも気力がいる。
洽録(紅録)・・・小説家。高い理想を持ちつつ、荒ぶる情念に
引きずられる男。佐藤家を巡る物語の源である。
シナ(万里子)・・洽録の「宿命の女」。大正4年女優を志願して上京するも
洽録の執着に負け、2番目の妻となる。
生涯を賭けた舞台への夢断念させられた。早苗、愛子の母。
八郎(ハチロー)・洽録の長男。父譲りの文才と感受性を受け継ぎ
不良少年から売れっ子詩人に。
節(チャカ)・・・次男。その不品行で数知れぬ問題を起こす。
愛人と広島で原爆に遭い死す。
弥・・・・・・次男。5歳で伯父の家に預けられる。フィリピンで戦死。
久(キュウ)・・四男、節の嘘のために追い詰められ、19歳で女と心中した。
真田与四男・・洽録が芸者に生ませた息子。父の違う兄と妹がいる。
若くして共産党に入る。
早苗・・・・・洽録とシナの長女。活発な娘。佐藤家の乱脈ぶりを嫌い
両親の反対を押し切って東大出の村木と結婚した。
愛子・・・・次女。洽録の愛情を一身に受けて育つが、陸軍主計の夫が
終戦後、モルヒネ中毒となって帰還し、その人生が一変する。